「原価率は30%が理想」
飲食業界にいると、この“常識”を何度も聞かされてきたと思います。僕も25年間この業界にいて、現場経験から始まり、店長、総支配人と経験してきましたが、この“常識”に縛られる瞬間がありました。
特に最近は、2025年に入ってからの原材料費の高騰がすごいんです。
帝国データバンクによると、4月だけで4,225品目の食品が値上げされたんです。特に調味料が2,034品目、酒類・飲料が1,222品目と、お店の“味の決め手”になる部分がかなり上がってるんですね。
こんな状況だと、従来の原価率30%という考え方にこだわっていると、どんどん料理の質を落とす施策を取りがちになるかと思います。実は原価率が40%でも全然利益を出せるんです。むしろ、その方が繁盛する可能性があります。
今日はそんな「原価率40%でも利益を出せる飲食店経営の新常識」について、現場25年の経験から話していきます。
繁盛している飲食店の意外な共通点は「原価率が高い」
飲食業界で長くやっていて、実は原価率が高いお店が繁盛しているということに気が付きました。
飲食店専門誌の記事によると、ある調査で繁盛店の共通要因を調べたところ、最大の要因が「原価率が高い」だったんです。これって当たり前のようで、実は多くの経営者が見落としてる重要なポイントなんですよね。
「原価を上げたら利益が出なくなる」って思いがちですけど、お客様が来なくて赤字の状態よりずっとマシです。実際、原価率50%でやってる飲食店は少ないので、商品力の差ははっきり出るんです。
ある繁盛店の経営者はこう言ってました。
「私は外食のまったくの素人です。調理の技術を持っているわけでもない。私のようなド素人が勝つためには、何をしたらよいか。食材の原価を上げるしかなかったのです。お客様にとって、違いがいちばんわかりやすいですからね」
この店のワインは、すべて小売店での価格と同じレベル。ワインの持ち込みもOKで、どんな銘柄を持ち込んでも持ち込み料は約999円だけなんです。実にわかりやすいですよね。
どう思います?
原価率を上げることで、お客様にとって「歴然たる違い」を見せることができるんです。最近のお客様は原価に対して実に確かな目を持ってます。原価をかけている店、いない店を、瞬時に見抜いています!
原価率40%でも利益を出せる飲食店の経営モデルとは
では具体的に、原価率40%でも利益を出すにはどうすればいいのか。これが本当に大事なところなんですよね。
まず知っておきたいのが、飲食店の利益を決める方程式です。
シンプルに言うと:
儲け=客単価×座席数×回転数(来客数)×(1-原価率)×営業日数-(人件費+家賃+経費)
この方程式を見ると、原価率は確かに利益に影響する要素の一つですが、それ以外にも客単価、座席数×回転数(来客数)といった要素があるんですよね。
原価率だけを見るのではなく、客単価や座席数×回転数(来客数)といった要素とのバランスで考えることが大切なんですよね。
FL比率で考える利益構造
もう一つ重要な指標が「FL比率」です。これはFood(食材原価)、Labor(人件費)のコストを合計した比率のことで、売上に対して60%以内に収めるのが理想とされています。
例えば、原価率が40%でも、人件費を適切にコントロールできれば、全体としての利益を確保することは十分可能なんです。
実際、業種によってFL比率の内訳は異なります。喫茶店ならF(材料費)34%、L(人件費)26%でFL比率60%。お寿司屋さんならF(材料費)42%、L(人件費)24%でFL比率66%というように、業態によって原価率の適正値は変わってくるんですよ。
なので「原価率30%が理想」という一律の基準にとらわれるのではなく、自分のお店の業態や特性に合わせた原価率を設定することが大切なんです。
原価率40%で飲食店が勝つための5つの戦略
では具体的に、原価率40%でも利益を出すためにはどうすればいいのか。僕の経験から5つの戦略をお伝えします。
1. 回転率を上げる工夫
まず大事なのは回転率です。原価率が高くても回転率が上がれば、トータルの利益は増えます。
例えば、注文から提供までの時間を短縮するための調理工程の見直しや、会計のスピードアップのためのキャッシュレス決済の導入などが効果的です。
実際にあるスパゲティー専門店では、麺を仕込みでストックしておき、注文時に茹で直し不要で炒めるだけという調理工程にすることで、調理時間をわずか2分に短縮しています。これにより回転率を上げながらも、原価率16〜18%という低コストを実現しているんです。
2. 客単価を上げる工夫
次に客単価です。原価率が高くても、客単価が上がれば利益は確保できます。
例えば、高原価食材の単品運用ではなく、セットメニューや期間限定などで利益の出やすい設計にすることが効果的です。高原価のメインと低原価のサイドメニューをセットにすることで、全体としての原価率を調整できるんですね。
また、ドリンクメニューの充実も重要です。ドリンク類は原価を低く抑えることができ、フードのような仕込みもほとんど必要ありません。フードで上がった原価率はドリンクでうまく調整するという考え方が大切です。低原価アルコールドリンクの開発や最近はノンアルコール需要も高まっているのでノンアルカクテルなどの工夫が必要です。
3. 固定費を削減する工夫
原価率が高くても、固定費を削減できれば利益は出せます。
人件費の削減のためにセルフオーダーシステムを導入したり、光熱費削減のために省エネ設備に投資したりすることも効果的です。ただし、導入コストが高額になる場合もありますので、販売管理費の項目をすべて見直すことも必要です。また、不動産コストの高い一等地・駅前ではなく、少し離れた場所に出店することで家賃を抑えるという選択肢もあります。
ポイントは人件費削減が接客サービスの質の低下につながらないよう注意が必要です。自動化できる部分とホスピタリティが必要な部分をしっかり見極めることが大切ですね。
4. 価格設定の工夫
価格設定も重要です。原価率が高くても、適切な価格設定ができれば利益は確保できます。
例えば、メニュー全体で見たときに原価率のバランスを取ることが大切です。「原価率40%だが集客に貢献する特別限定メニュー」と「原価率20%の定番人気メニュー」といったメリハリをつけて、トータルで適正な原価率になるように調整するんです。売れ筋と儲け筋、このバランスが重要です。
また、値上げをする際には、単に価格を上げるだけでなく、付加価値を明確に伝えることが重要です。ある都内の創作居酒屋では、価格改定に際し「契約農家の野菜比率を80%に引き上げます」と宣言し、逆に常連客を増やしたという事例もあります。
5. ストーリーで価値を伝える工夫
最後に、価格(値付け)理由をストーリーとして伝えることも重要です。
例えば、「この肉は○○県の契約農家から直接仕入れています」「このワインは小売価格と同じ価格で提供しています」といった形で、理由を明確に伝えることで、お客様の納得感と満足度を高めることができます。
僕がまだ現場で働いていた頃の話なんですけど、あるとき「このビールはなぜ他店より価格が高いのか」というお客様からの質問に対して、「弊社では、工場出荷後からお客様に提供されるまでの全工程において、生ビールの品質維持に万全を期しております。具体的には、毎日すべてのサーバー機器を清掃・メンテナンスし、常に最良のコンディションで生ビールをお楽しみいただけるよう、品質管理を行っております。」と説明したところ、「なるほど、だから美味しいんですね」と納得してもらえたことがあります。
このように、原価率が高い理由をストーリーとして伝えることで、価格に対する納得感を高めることができるんです。
原価率40%時代の飲食店経営の新常識
最後に、原価率40%時代の飲食店経営の新常識についてまとめておきます。
まず、「原価率30%が理想」という従来の常識にとらわれないことが大切です。業態や立地、コンセプトによって最適な原価率は変わってきます。
次に、原価率だけでなく、客単価、座席数、回転数、固定費などを総合的に考えた経営が必要です。原価率が高くても、他の要素でカバーすれば十分に利益は出せます。
そして、原価率が高い理由をストーリーとして伝えることで、お客様の納得感と満足度を高めることが重要です。単に「高い原価=高い価格」ではなく、その背景にある価値をしっかり伝えることが大切なんですよね。
2025年の今、原材料費の高騰が続く中で、従来の常識にとらわれない柔軟な経営がますます重要になってきています。原価率40%でも利益を出せる経営モデルを構築することが、これからの飲食店経営の新常識と言えるでしょう。
飲食業界で25年やってきた僕の経験からすると、お客様は商品価値を良くご存じです。原価を抑えて利益のみを追求し質を落とすより、適正な原価をかけて良い価値の商品を提供する方が、長い目で見たら絶対に成功します。
「楽しくなければ飲食店じゃない」
現場で働く人、お客様、地域──すべてが笑顔になれる飲食の未来のために、ぜひ原価率の考え方を見直してみてください。きっと新しい可能性が見えてくるはずです。
詳しい経営相談は、ぜひevisu公式ラインよりお問い合わせください。現場25年の経験を活かして、あなたのお店の経営改善をサポートします。
岡本優
飲食業界歴25年/元・銀座ライオン本店 総支配人
現場を知り尽くした、飲食店伴走型パートナー
飲食業界歴25年。国内最大級のビヤホール「銀座ライオン」にアルバイトとして入社後、現場一筋でキャリアを重ね、社員、店長を経て、700席を擁する新宿・銀座ライオン本店の総支配人に就任。
店舗経営、メニュー開発、人材育成まで、マネジメント全般を統括。未曾有のコロナ禍においては、厳しい経営状況も経験しました。
25年間の現場経験のすべてを「飲食業界への恩返し」に注ぎたいと一念発起し、独立。現在は、豊富な店舗運営の経験とベンチャー企業で培った知見を活かし、数字に強い実務型パートナーとして個人飲食店のオーナー様を支援しています。
机上の空論ではない、現場に深く寄り添った改善提案が信条です。オーナー様と共に汗を流し、課題を乗り越える。「楽しくなければ飲食店じゃない!」をモットーに、スタッフが輝き、利益が生まれる店づくりを一緒に全力で伴走します。
