こんにちは!飲食業界で25年、お客様の「美味しい」とスタッフの「楽しい」を追求し続けてきた飲食店経営伴走型パートナー、岡本です。
今日は飲食業界が直面している最大の課題の一つ、「人手不足」について本音でお話しします。
2025年の今、飲食業界の人手不足は想像以上に深刻な状況に陥っています。帝国データバンクの最新調査によると、飲食店の人手不足割合は正社員で65%以上、非正社員においては驚異の76%以上と、他業種と比較しても群を抜いて厳しい状況が続いています。
これは単なる数字ではありません。私が先日訪問した東京のある人気店では、スタッフ不足のため営業時間を2時間も短縮せざるを得なくなっていました。売上が上がる時間帯を諦めているのです。
さらに深刻なのは、東京商工リサーチの調査によると、2024年度の飲食業の倒産件数が1989年度以降最多となる見込みだということ。その主な要因が「人手不足」による人件費高騰や運営困難なのです。
なぜ飲食店は人手不足に陥るのか?
「求人を出しても全然応募がこない…」このような悩みを抱える経営者は少なくありません。では、なぜ飲食業界はこれほどまでに人手不足に陥っているのでしょうか?
厚生労働省の令和2年賃金構造基本統計調査によると、「宿泊業・飲食サービス業」の月給は男女ともに約21万円と、全産業の中でもっとも低い水準となっています。金融・保険業の男性平均が約43万円、情報通信業の女性平均が約32万円であることを考えると、その差は歴然です。
私が現場で25年間働いてきた経験から言えるのは、賃金の問題だけではないということ。飲食業界特有の課題として、以下の3つが大きく影響しています。
- 仕事量の多さと責任の重さ:一人のスタッフが担う業務量が多く、特に人手が足りない状況では更に負担が増加
- 休憩時間・休日の取りにくさ:お客様の来店状況によって休憩が後回しになったり、繁忙期には休みが取れなくなることも
- 研修期間の短さ:忙しさのあまり、新人教育に十分な時間を割けないケースが多い
新人スタッフが「想像以上に仕事がハード」と言って1週間で辞めてしまったことがあります。その時、十分な研修期間を設けられなかった自分の責任を痛感しました。
さらに、コロナ禍の影響で業界から離れた人材が戻ってこないという「Uターン問題」も顕在化しています。一度別業種に移った方々が、再び飲食業界に戻ってくるケースは残念ながら少ないのが現状です。
人手不足がもたらす3つの深刻な飲食店への影響
人手不足は単なる「人が足りない」という問題ではありません。放置すれば、あなたの店舗経営に致命的なダメージをもたらします。

人手不足がもたらす、飲食店への3つの深刻な影響
1.【現場レベル】 QSC(品質・サービス・清潔さ)の低下と、顧客満足度の急降下
これは、人手不足が最初にもたらす、最も直接的で危険な影響です。
- 品質(Quality)の低下: 厨房スタッフが不足すると、一品一品にかけられる時間が短くなり、調理工程の省略や確認不足が発生します。これにより、料理の味のブレ、盛り付けの乱れ、異物混入のリスクなどが高まります。
- サービス(Service)の低下: ホールスタッフが不足すると、お客様のご案内、オーダーテイク、料理提供、会計の全てに遅れが生じます。ドリンクのおかわりを伺ったり、お客様の表情を読み取ったりといった、付加価値の高いおもてなしは不可能になります。結果として、「呼んでも来ない店」「サービスが悪い店」という最悪の評判に繋がります。
- 清潔さ(Cleanliness)の低下: 最低限の人数で営業を回すことに追われ、テーブルの片付け、床の清掃、トイレのチェックといった衛生管理が後回しになります。不潔な店は、お客様に生理的な嫌悪感を与え、二度と来店してもらえなくなります。
これらのQSCの低下は、顧客満足度を急降下させ、致命的な悪評(特にネット上の口コミ)を生み出し、リピーターの足が遠のく直接的な原因となります。
2.【組織レベル】 既存スタッフへの過度な負担と、離職の連鎖
現場の綻びは、必ず組織の崩壊へと繋がります。
- 心身の疲弊とモチベーションの低下: 少ない人数で店を回すため、既存スタッフ一人ひとりへの負担は激増します。長時間労働や休日出勤が常態化し、心身ともに疲弊します。感謝されるどころか、お客様からのクレーム対応に追われる日々は、彼らの働く意欲と誇りを確実に蝕んでいきます。
- 教育不足と、新人・若手の早期離職: 本来、新人スタッフの教育に時間を割くべき既存スタッフが、目の前の業務に追われてそれどころではなくなります。放置された新人は、スキルが身につかず、店にも馴染めず、「自分は歓迎されていない」と感じてすぐに辞めてしまいます。
- 負のスパイラルによる組織崩壊: 「新人が入ってもすぐ辞める」→「既存スタッフの負担が増える」→「疲弊した既存スタッフも辞める」→「さらに人手が不足する」…という、抜け出すことのできない負のスパイラルに陥ります。これにより、店の理念や技術の継承が途絶え、組織としての体をなさなくなります。
3.【経営レベル】 売上機会の損失と、事業成長の完全停止
現場と組織の崩壊は、最終的に経営そのものを破綻へと導きます。
- 機会損失の常態化: 満席にできる客席があっても、対応できるスタッフがいないため**席数を減らして営業(=機会損失)**せざるを得なくなります。予約の電話が鳴っても断らざるを得ず、営業時間を短縮することもあります。これは、本来得られるはずだった売上を、毎日自ら捨てている状態です。
- 未来への投資の停止: オーナーや店長が、日々の人員不足を埋めるために現場のシフトに入りっぱなしになり、本来やるべき経営業務(売上分析、販促企画、新メニュー開発など)に全く時間を割けなくなります。未来の売上を作るための活動が完全に停止し、店の成長は止まります。
- 「静かなる倒産」への道: 売上はじわじわと下がり、採用コストはかさみ、利益は圧迫される。そして何より、オーナー自身の心が折れてしまう。これが、人手不足がもたらす最終的な結末、事業継続の断念、すなわち「静かなる倒産」です。
飲食店の人手不足を乗り切る5つの実践的戦略
では、この厳しい状況を乗り切るために、私たち飲食店経営者は何をすべきでしょうか? 現場で実際に効果を上げている5つの戦略をご紹介します。

1. 採用戦略の見直し
まず取り組むべきは、採用の仕方を根本から見直すことです。「人が来ない」と諦める前に、求人の出し方を変えてみましょう。
具体的には、ターゲットを明確にした求人作成が効果的です。学生、主婦、シニア、外国人など、それぞれが求める働き方や魅力は異なります。例えば、主婦層をターゲットにするなら「短時間勤務OK」「扶養内勤務可能」といった条件を明示しましょう。
また、求人内容も単なる業務説明ではなく、「なぜここで働くと楽しいのか」「どんな成長ができるのか」といった魅力を具体的に伝えることが重要です。
ある店舗で取り入れたのは、「1日体験入店」という仕組み。実際に2時間ほど現場を体験してもらい、その場で採用可否を決定する方法です。これにより、ミスマッチによる早期離職が大幅に減少しました。
2. 定着率を高める職場環境づくり
人を採用できても定着しなければ意味がありません。定着率向上には、以下の取り組みが効果的です。
- 適切な研修期間の確保:最低でも2週間は丁寧な指導を行い、不安を解消する
- コミュニケーションの活性化:定期的な面談や意見交換の場を設け、不満や改善点を早期に把握
- 評価制度の明確化:頑張りが報われる仕組みを作り、昇給・昇格の道筋を示す
- 働きやすいシフト作成:個人の事情に配慮したシフト調整で、ワークライフバランスを支援
スタッフ一人ひとりと月1回の個別面談を実施し、悩みや要望を聞く時間を設けます。その結果、年間の離職率が25%から8%に激減。「話を聞いてもらえる」という安心感が、定着率向上に大きく貢献したのです。
人手不足時代を乗り切るには、日々の店舗オペレーションを見直すことが欠かせません。効率化や分業の工夫は、限られた人員でも高いサービス品質を維持するための土台になります。
関連記事: マニュアル不要?飲食店オペレーションの新常識とは?
3. 業務効率化とDX推進
限られた人員で店舗を回すには、業務の効率化が不可欠です。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入は、人手不足解消の強力な武器となります。
例えば、以下のようなツールの導入を検討してみましょう。
- セルフオーダーシステム:お客様自身がタブレットで注文することで、オーダー業務の負担軽減
- 予約・顧客管理システム:電話対応や予約管理の自動化による業務効率化
- キッチンディスプレイシステム:伝票レスでオーダー情報を共有し、調理効率を向上
- シフト管理システム:スタッフのシフト希望収集から作成までを効率化
とあるラーメン店では、セルフオーダーシステムの導入により、ホールスタッフを2名から1名に削減しながらも、客単価が8%アップ。人件費削減と売上増加の両方を実現しました。
4. メニュー構成の最適化
人手不足時代には、「作りやすさ」を考慮したメニュー設計も重要です。具体的には以下のポイントを意識しましょう。
- メニュー数の適正化:ABC分析で売上貢献度の低いメニューを思い切って削減
- 調理工程の標準化:複雑な調理工程を簡略化し、誰でも一定品質で提供できるよう標準化
- 半調理品の活用:繁忙時間帯前に下準備を済ませておくことで、提供時間の短縮
- 原価と調理時間のバランス:手間がかかる割に利益率の低いメニューの見直し
70品あったメニューを45品に絞り込んだ店舗。最初は「選択肢が減る」と不安でしたが、結果的に回転率が向上し、売上は5%アップ。さらに、厨房の残業時間も月30時間削減できました。
「選択と集中」は、人手不足時代の飲食店経営において重要なキーワードです。
5. 多様な働き方の受け入れ
従来の「週5日・8時間勤務」という固定概念を捨て、多様な働き方を受け入れることも効果的です。
- 短時間勤務の積極活用:ランチタイムや夕方の繁忙時間帯だけの勤務も歓迎
- ジョブシェアリング:1つのポジションを複数人で分担する働き方
- 副業・兼業人材の活用:他の仕事と掛け持ちで働くスタッフの受け入れ
- シニア層の採用:経験豊富なシニア層の知識や技術を活かす
近隣に住む60代の元料理人を週3日・4時間勤務で採用。その方の豊富な経験と技術が若手の教育にも役立ち、店舗全体の料理レベルが向上しました。
「人が足りない」と嘆く前に、「どんな働き方なら人が集まるか」を考えることが大切です。
飲食店の成功事例に学ぶ人手不足克服のポイント
ここからは、実際に人手不足を乗り越えた飲食店の成功事例をご紹介します。

事例1:回転寿司チェーンの取り組み
ある回転寿司チェーンでは、以下の施策で人手不足を克服しました。
- セルフオーダーシステムとタッチパネルの導入
- 皿の自動回収システムの導入による片付け業務の効率化
- シャリ握り機の導入による調理工程の一部自動化
- スタッフの多能工化(ホール・キッチン両方を担当できる教育)
これらの取り組みにより、店舗あたりの必要人員を約20%削減しながらも、客単価と回転率の向上を実現しています。
事例2:居酒屋チェーンの働き方改革
ある居酒屋チェーンでは、以下の「働き方改革」で人材確保に成功しました。
- 営業時間の見直し(深夜営業の短縮)
- 完全週休2日制の導入
- 残業時間の上限設定と管理の徹底
- 時短勤務・シフト制の柔軟化
- キャリアパスの明確化と定期的な昇給制度
この改革により、業界平均の2倍以上の応募数を獲得し、離職率も半減させることに成功しています。
事例3:地域密着型カフェの地域連携
地方の小規模カフェでは、以下の「地域連携」で人手不足を解消しました。
- 地域の複数飲食店でスタッフのシェアリング
- 地元高校・専門学校との連携による実習生の受け入れ
- 地域イベント時の相互応援体制の構築
- 退職したシニア層の短時間勤務での再雇用
この取り組みは、単なる人手不足解消だけでなく、地域全体の飲食業活性化にもつながっています。
これらの事例に共通するのは、「従来の常識にとらわれない発想」です。人手不足時代を生き抜くには、固定概念を捨て、柔軟な発想で新しい仕組みを作ることが不可欠なのです。
まとめ:人手不足を乗り越え、持続可能な飲食店経営へ
飲食業界の人手不足は、今後も続く構造的な問題です。しかし、それは必ずしも「悲観すべき状況」ではありません。むしろ、業界全体が変革を迫られる「チャンス」と捉えることもできます。
本記事でご紹介した5つの戦略を実践することで、人手不足時代でも持続可能な飲食店経営が可能になります。
- 採用戦略の見直し:ターゲットを明確にした求人作成と魅力の発信
- 定着率を高める職場環境づくり:研修制度の充実とコミュニケーションの活性化
- 業務効率化とDX推進:テクノロジー導入による業務負担軽減
- メニュー構成の最適化:「選択と集中」による効率的な運営
- 多様な働き方の受け入れ:固定概念を捨てた柔軟な人材活用
私は25年間の飲食業界経験を通じて、どんな困難も「答えは現場にある」と確信しています。人手不足も例外ではありません。現場の声に耳を傾け、スタッフと共に解決策を模索することが、この危機を乗り越える鍵となるでしょう。
そして何より大切なのは、「楽しくなければ飲食店じゃない!」という原点を忘れないこと。人手不足の中でも、お客様にも、スタッフにも、そして経営者自身にも「楽しさ」を提供できる店づくりを目指していきましょう。
あなたの店の未来を、心から応援しています。
飲食店経営に関するご相談や、人手不足解消のための具体的なアドバイスが必要な方は、飲食業界で25年、「美味しい」と「楽しい」を追求し続けてきた飲食店経営伴走型パートナー岡本にevisu公式LINEにてご相談ください。
岡本優
飲食店経営伴走型パートナー
もう、一人で悩まない。
あなたの店の「右腕」になります。
利益改善、集客強化、人材育成、オペレーション改善まで、
経営のあらゆる課題に、オーナー様と同じ目線で
共に答えを見つけ出します。
現場力とマーケティング力を掛け合わせた、
evisuだけが提供できる継続的なパートナーシップです。
飲食店の課題の答えは、すべて現場にあります。
私の仕事は、その答えをオーナー様と共に見つけ出すこと。
飲食業界で25年、お客様の「美味しい」とスタッフの「楽しい」を追求し続けてまいりました。株式会社サッポロライオン「銀座ライオン」にアルバイトにて入社後、ひたすら経営と現場に没頭する中で、新宿店、そして800席を超える銀座本店の総支配人を拝命。
赤字店舗の再建を託される機会も多く、お客様とスタッフ双方の満足度向上を軸としたアプローチで、全ての担当店舗を黒字化へ導いた経験は、私の大きな財産です。
しかし、多くの飲食店が未来に不安を抱えている現状を目の当たりにし、この経験を業界全体のために活かしたいという想いが日に日に強くなりました。そこで2025年、株式会社evisuを設立。25年間現場で培ったリアルなノウハウを、同じ志を持つ経営者の皆様と分かち合い、共に困難を乗り越えるパートナーでありたいと考えております。
「楽しくなければ飲食店ではない」を信念に、皆様のお店が笑顔で溢れる場所になるよう、全力でサポートいたします。
